業務案内

通報内容の調査方法・対策に関するご提案

目次

1. はじめに

 内部通報がなされ、会社に通報内容が報告されますと、次に必要となるのは社内における通報内容に対する対応です。
 社内における通報内容に対する対応は、内部通報を実効性のあるものとするために大変重要なものです。多くの通報者は、不安を抱えながら、必死の思いで通報をします。会社のためを思い、不正に気付いて、当事者ではないにも関わらず、通報される方もいます。

 それにもかかわらず、通報しても会社において何ら対応がとられなかった、状況は改善されなかったということになれば、結局「内部通報制度は形だけのものだ」と通報者に思われてしまい、利用する人はいなくなります。

 そうなってしまっては、内部通報制度を設け、自浄作用を働かせることで、企業価値を高めるという内部通報制度の重要な意義も失われます。

 当事務所は、このように内部通報制度の実効性を左右する通報内容に対する会社の対応についてもアドバイスをしたり、対策をご提案することが可能です。

 本ページでは、社内における対応として必要なこと、注意点、当事務所がどのような形でお手伝いが可能かといったことにつき、基本的なことをご紹介します。

 会社の状況に応じて必要なことが異なるのが通常です。ご相談いただければ、各会社の状況に合わせてアドバイスさせていただきますので、気になることがある場合には一度ご相談ください。

2. 社内での対応の流れ

 当方では、社内における対応として、大まかに以下の流れで行っていただくことをお勧めします。本ページでは、説明の便宜上、当事務所に内部通報の社外窓口を設置いただいた場合を想定してご説明させていただきます。

  1. ① 通報者から当事務所に対して内部通報
  2. ② 通報者から弁護士が通報内容の概要聴取
  3. ③ 会社に対する通報内容の報告及びアドバイス
  4. ④ 社内において調査方法・調査担当者の決定
  5. ⑤ 通報者、通報対象者などからの事情聴取実施
  6. ⑥ 処分の要否、処分内容の決定
  7. ⑦ 通報者に対するフォローアップ

3. 通報者から当事務所に対して内部通報

 当事務所が社外窓口となる場合、電話やメールで内部通報を受け付けていますので、通報者よりいずれかの手段で第一報が入ります。

 なお、当事務所における社外窓口としてのサービス内容は、「内部通報の社外窓口としての業務」をご覧ください。

4. 通報者から弁護士が通報内容の概要聴取

 内部通報が入ったのち、当事務所では弁護士が、概要を聴取します。

 電話で通報が入った場合も、電子メールで通報が入った場合も、通報者の方に対して、基本的には面談による聴取をお勧めいたします。面談による聴取を承諾いただけた場合には、弁護士が通報者と面談をして概要を聴取します。

 他方、様々な事情から面談の対応は難しい方もいらっしゃいますので、その場合は、電話と電子メールにより複数回のやり取りを重ねて概要を把握します。

5. 会社に対する通報内容の報告及びアドバイス

 当事務所でまとめた通報内容を会社に対して報告します。その際、通報概要に対する弁護士としての法的見解なども付してご報告をいたします。

 その際、必要に応じて、当事務所より当該通報内容に関する調査方法や対策に関するアドバイスも差し上げます。

 主に、調査対象とすべき人は誰なのか、調査担当者としてふさわしいのは誰なのか、どういった順番で調査を進めるのが良いのか、どういった証拠を集めるべきなのかといったことをお伝えすることになります。

6. 社内における調査方法・調査担当者の決定

  1. 打合せ

     通報内容の報告が会社に上がってきた後は、社内で、通報内容に対する対応についての打合せを行っていただき、事案に応じて適切な調査方法、及び調査担当者を決定します。

  2. 調査方法

     例えば通報者Aから「同じ部署のBよりパワハラやセクハラを受けているので、部署異動をさせてほしい。同じ部署のCさんも私が被害を受けていることは知っていると思います。近くで見ていますから。」というような内容で内部通報があった場合には何を考慮して調査方法を決めていくべきでしょうか。

    〈調査における相関図〉

    調査における相関図

     会社としては、最終的に、通報者Aの希望通り部署異動をさせるか否かという判断のみならず、パワハラをしているとされる通報対象者の処分についても検討する必要があります。
     この点を考えると、通報者Aからの事情聴取、パワハラ・セクハラをしているとされる通報対象者Bの事情聴取はもちろんのこと、当該部署関係者でパワハラ行為などを目撃している可能性がある調査協力者Cからの聴取も検討する必要があります。
     こういった事案では通報者Aと通報対象者Bから事情聴取を行ったとしても言い分が完全に一致することは稀です。そのような中で、会社としては、できる限り事実認定を行った上で、部署異動の要否、通報対象者Bに対する処分の要否など社員の人生に多大な影響の出うる決断しなくてはいけません。そのため、通報者Aや通報対象者Bの事情聴取のみに頼ることなく、調査協力者Cのような第三者からの聴取や客観的証拠収集にも注力する必要があります。
     当事務所では、このように各事案に応じて、当該事案における事実認定を行うために誰から事情聴取を行い、どのような証拠を集めるべきかということについてアドバイスするようにしています。

  3. 調査担当者

    1. 利害関係がないこと

       通常は、上記の図のとおり最低でも通報者Aと通報対象者Bの二者、多い時には調査協力者Cなども含めた三者以上の者から事情聴取が必要になります。そのため、担当者の重要な仕事の一つは、この事情聴取を行うことです。
       その観点から調査担当者として適切な人材は、「事情聴取対象者と利害関係がなく、先入観を持たずに調査を行える方」になると考えています。
       事情聴取の主な目的は、可能な限りの事実認定を行うことです。そして、調査を開始する前の状態は、上記相関図の通りです。わかっているのは、通報者Aの述べていることのみです。通報対象者Bや調査協力者Cが何を述べるか、どのような認識を持っているかは一切わからない状態で調査がスタートします。
       この状態で、仮に、通報者Aと友人関係にある者が調査に当たることになった場合、過去に通報者Aより相談を受けている可能性もありますし、思い入れがあって当然です。そのため、「通報対象者Bはパワハラをしていたに決まっている」という先入観をもって調査が開始されてしまい、通報対象者Bが何を言っても信用しない、調査協力者Cからの事情聴取においては通報者Aに都合の良い内容だけが取り上げられるという事態になりかねません。逆もしかりです。通報対象者Bと親しい関係にある者が調査担当者になってしまうと、「Bはそんなことをする奴じゃない。Aが嘘をついているのでは。」という先入観を持って調査をスタートすることになる可能性があります。
       このようになってしまっては正確な事実認定は困難です。いずれかの当事者に偏った調査、さらには事実認定が行われることになってしまいますので大変危険です。
       そのため、調査担当者を選ぶ際には、事情聴取対象者と利害関係がなく、先入観を持たずに調査を行える人かどうかについてよく検討いただきたいです。

    2. 具体的な人選

       では、具体的に誰を調査担当者とすべきでしょうか。
       当事務所としては、社内のコンプライアンス(内部通報)担当部署の方2名程度、もしくは社外の第三者を入れて2名程度のペアで行っていただくのが良いのではないかと考えています。
       関係者をよく知っているということで、通報者Aと通報対象者Bの部署の上司などにまずは事情聴取をしてもらうというケースもよくあります。確かに両者をよく知っているという意味でメリットもあるのですが、逆に双方と利害関係があるとも言えますし、近い関係ですので片方とより親しいということもあり得ます。状況によっては適切な場合もあるので一概には言えませんが、基本的には、当該部署の上司などを調査担当者とすることにはリスクがあると考えます。
       利害関係のない方を担当者とすることになりますと、結局、通報者Aや通報対象者Bの部署関係者などは避ける必要がありますので、社内より担当者を決定する場合は、まずはコンプライアンス担当部署より選ぶことを検討いただくのが良いのではないかと思います。
       また、費用関係などがクリアできる場合には、社外の第三者を調査担当者に加えるのも適切な選択肢の一つです。この場合には、会社の顧問弁護士に調査に加わってもらうのも一つの方法です。ただ、事案によっては顧問弁護士が会社の代理人ということで、通報者や通報対象者が委縮してしまい、思ったように話ができないという事態もあり得ますので慎重にご判断いただく必要があります。

    3. 人数について

       いずれの方を担当者とする場合も、事情聴取には、複数名で臨んでいただければと思います。2、3名がベストな人数ではないかと考えます。
       基本的に、事情聴取を行う相手のプライバシー保護の問題もありますので、事情聴取は密室で行うことになります。仮に事情聴取を行った後、事情聴取を行った相手からクレーム等が出てしまったときに、二人以上の人数で聴取に当たっていれば、見ていた第三者がいますので聴取に問題があったかなかったかの判断がしやすいですが、一人で聴取に当たっていた場合には、言った言わないの問題が発生してしまい、通報された問題の解決のための調査によって、新たな問題が増えてしまうという事態になりかねません。そのため、基本的に、調査には複数名で当たっていただきたいと考えます。
       他方で、事情聴取を行う通報者等に対して、プレッシャーになってはいけませんので、4名、5名という大人数で調査にあたるのも不適切です。
       そこで、適度な人数としては、2、3名ではないかと考えています。

7. 通報者、通報対象者などからの事情聴取実施

 調査担当者が決定し、どのような調査を行うかが決まった後は、実際に、調査を実施していただくことになります。簡単に注意事項をご説明します。

  1. 場所

     事情聴取の相手のプライバシーにかかわる問題であることがほとんどですので、話が外にもれない、遮蔽された空間で、行っていただくのがよいと思います。

  2. 録音

     基本的には、事情聴取の際には、聴取の相手にも説明の上、録音をしていただくことをお勧めします。
     状況によっては、聴取は数時間にも及びます。通報者も通報対象者も貴重な時間を割いて対応してくれますので、繰り返し聴取を行うことはできる限り避ける必要がありますし、記録をすることで調査における不正の抑止にもなるためです。

8. 処分の要否、処分内容の決定

 事情聴取等の調査完了後、通報者Aの希望通り部署異動を行うのか、通報対象者Bに対して処分を行うのかといった、通報内容に対する対応を最終的に決定することになります。

  1. 通報対象者Bに対する対応

     通報対象者Bに対して処分を行うのか否か、行うとしてどのような処分を行うのかといったことについては、会社の就業規則、過去の処分歴等に照らし、公平に行うことを心がけていただければと思います。

  2. 通報者Aに対する対応

     通報者Aの要望に応えるかどうかについては、悩ましいことが多いです。
     仮に通報者Aのように部署異動が希望であった場合、部署異動をさせるか否かについても社内で一定のルールが設けられているのが通常です。他の社員と公平にという観点からは当該ルールを考慮することは大変重要です。
     しかし、通報者Aに対する対応は、ルールに沿って決めればよいと一概に言えないケースも多いです。仮に社内のルールに照らした場合には必ずしも部署異動させるべき状況にないとしても、事情聴取の結果、実際に通報者Aが苦しんでいたり、通報者Aと通報対象者Bとの関係悪化により、当該部署における働く環境も悪化してしまっている状況であれば、他の社員のためにも部署異動させた方が良いという判断もありえます。
     通報者Aやその他の社員にも利益になるような判断であれば、柔軟な対応も心がけていただけると良いと思います。

9. 通報者に対するフォローアップ

 内部通報制度を実効性のあるものとするためには、通報者に対するフォローアップも大変重要になります。

  1. 結果のフィードバック

     まずは、いかなる結果であったとしても、可能な範囲で、対応結果を通報者に報告していただくことが重要です。仮に調査に時間がかかる場合には、簡単に進捗状況を報告いただくのも一つの方法です。必死の思いで通報したにも関わらず、調査が進んでいるのか否かは不明、どういった対応がされたかも知らされないとなりますと、いったい何のために通報したのかということになり、内部通報制度、ひいては会社に対する不信感だけが残ってしまいます。通報者に、通報した意味があったと考えてもらうためには、進捗状況や結果の報告は必須と考えます。

  2. アフターケア

     調査の実施により、結果的に通報者が通報したことが周囲に知られてしまうケースは珍しくありません。もちろん、これは通報者にも許可をとって行うことなのですが、通報者としても、周囲に知られてしまった結果何が起こるかまでは予想できていなかったり、仮に予想していた事態が起きたとしてもそれを通報者が甘んじて受けざるを得ない状態にしてはいけません。
     このようなケースでは、通報者に対するアフターケアを行うことも一つの選択肢としてお考えいただくと良いと思います。
     通報内容に対する対応後、定期的に、通報者に対して嫌がらせがなされる等何らかの不利益を受けている事実がないかといったことを通報者本人に聞いていただくなど、会社が責任をもってケアいただけると、それを見た周囲の社員も、通報して、万が一何かあっても会社が守ってくれると認識してくれますので、内部通報制度に対するハードルも下がります。

10. まとめ

 以上のように、通報された内容に対して会社が公明正大な調査を行いうるか否か、必要な対応を行うか否かは、社員の内部通報制度に対する信頼、ひいては利用頻度を大きく左右するものであり、内部通報制度を実効性のあるものにするために大変重要なものになります。

 当事務所ではこのような認識のもと、通報内容に対する調査方法に関するアドバイスや調査後の対策のご提案させていただきます。悩まれることが多いところだと思いますので、一度ご相談ください。