お困りの種類

内部通報窓口の利用者が少ない

目次

1. はじめに

 内部通報窓口に関するご相談をお受けする際、多くの担当者から聞かれる悩みの一つが“現在の内部通報窓口の利用者が少ない”ということです。

 会社内の問題がないので利用者がいないということであれば問題はありません。しかし、多くの担当者は、肌感覚や耳に入る噂では会社内の問題は起きているのに利用者が少ないと感じ、内部通報窓口が利用しにくいため利用者が増えない点に、問題があると感じています。

 当事務所の考えも同様です。一定の規模の組織になっていきますと、問題がないということはありません。取引が増え、従業員が増えれば、問題も増えて当然です。そのため、問題がないために内部通報の利用者がいないのではなく、問題は発生しているが、内部通報窓口の存在が知られていなかったり、利用しにくいという理由から、内部通報窓口が利用されていないのが現状と考えています。

 内部通報制度は、会社が自分たちの力で問題を解決し、より良い会社を作っていくための重要なツールの一つです。せっかく用意されているにもかかわらず、それが機能していないのは大変残念な状態です。

 そこで、本ページでは、当事務所が協力できることも含めて、内部通報窓口を利用しやすいものにするためのポイントについて、簡単にご説明していきます。

2. 内部通報窓口が利用されない原因

 内部通報窓口が利用されない原因としては様々なものが考えられますが、早期に見直してみていただきたい点が三つほど考えられます。

 以下では、それぞれ何が問題であり、解決策としてどのようなことが考えられるのかを順に説明していきます。

3. 内部通報窓口の設置場所の増設もしくは変更

  1. 問題点

     現在、貴社では、内部通報窓口をどこに設置しているでしょうか?

     内部通報制度の設計から担当した内部通報担当の部署が設けられており、当該部署を社内の内部通報窓口としている会社もあれば、代表取締役や監査役などの役員個人を窓口としているところなどもあります。

     これらの社内窓口に共通する問題は、あくまで社内の部署・人であるため、通報者にとっては「通報したことで自分が不利益を被るのではないか」という不安が大きいという点です。

     当たり前ですが、内部通報は、社内で起きている問題を通報することになりますので、会社にとって不都合な問題が含まれます。そのため、通報者は常に、通報したことにより会社から不利益な取扱いをされるのではないかという漠然とした不安を抱えています。それが、社内の人間に対して通報するとなると、「通報した段階で握りつぶされ、自分だけが望まぬ部署への異動や事実上の減給など、不利益を受けて終わるのではないか」といった形でさらに不安が増すのが人間です。多くの会社の内部規程には、不利益を受けないことを保証する旨の規定はされていますし、実際に通報者が不利益を受けることはないはずなのですが、そのような規定によって消えるような不安ではありません。

     このような感覚は、会社にお勤めである担当者ご自身もよくわかるものではないでしょうか。

     社内にのみ内部通報窓口が設置されている状況ですと、主に上記のような通報者の不安が原因となり、利用者が増えない傾向にあります。

  2. 対策

     対策の一つは、外部に内部通報窓口を設置することです。なお、「社外窓口を設置するとして、どこに設置するべきか」ということについては、「内部通報制度の構築支援」をご覧ください。

     社外窓口に通報する場合でも、もちろん、通報者の不安が100%消えるわけではありません。実際に、通報を受けた経験から申し上げると、通報者の方は不安を抱えたまま通報されていました。

     しかし、少なくとも、話す相手が会社と利害関係のない第三者であれば、その段階で握りつぶす理由はありませんし、相手は通報者に何らかの不利益を与える権限を持っている人でもありません。加えて、最悪の場合、会社には報告しないという判断をすることも可能です。

     そのため、通報者にしてみると「まずは話をしてみよう」という感じで、通報のハードルが下がりやすくなります。内部通報に関しては、この最初の段階のハードルを下げることが非常に重要かと思います。

     例えば、当事務所であれば、弁護士が直接話を聞き取りますので、通報者に安心して話してもらえる工夫をしつつ、会社への報告のメリットなど適切な情報提供を行い、許可をもらって会社に報告するという流れになります。経験上、最初は不安を感じて会社への報告を迷っていた方でも、弁護士からの説明を受けて、会社に報告する決断をされる方がほとんどでした。

     このように社外窓口が設置されますと、社内の内部通報窓口のみであれば通報しなかった可能性のある人たちが、社外だからちょっと話してみようということで、通報し、それが会社に還元されるという形で、内部通報制度の利用が増加していくという効果が見込めます。

4. 内部通報制度(窓口)の周知徹底

  1. 問題点

     貴社では、内部通報制度をスタートさせる際、社内で周知はしたでしょうか。した場合には、どのような形で周知を行ったでしょうか。また、開始後も定期的に周知活動を行っているでしょうか。

     内部通報の利用者が増えない大きな原因の一つとして、そもそも会社にそういった制度があることを従業員が認識していない、認識はしているが、どういう制度かわかっていない、すなわち、制度の周知不足が挙げられます。

     会社に内部通報制度があることが認識されていなければ利用する人がいないのは当たり前です。どういった制度か理解が進んでいない場合も同様の結果になります。

     実際に、内部通報の周知方法を変えた途端、それまで一月の利用人数が0人、多くて1~2名程度だったものが、倍以上の人数に増えたという会社もありました。

     このように、内部通報の利用者を増やすためには、まず適切な方法で利用者に周知することが非常に重要です。

  2. 対策

     内部通報制度をスタートさせる際に周知をすることはもちろんですが、基本的には、毎年一度は周知を行う、または常に人の目につく方法で周知を行うことが重要になると思います。

     まず、制度をスタートさせる際の周知方法についてです。

     簡易な方法としては社内向けの共通メールで情報を流したり、社員専用のサイト内で情報を掲示したりということが考えられます。この方法は多くの企業で行われているのではないかと思いますが、現在、こういった方法は情報が多すぎるということもあり、社員の目には止まりにくくなっているように感じます。

     加えて、この方法ですと、結局は一度きり、その時だけで終わってしまう傾向にあります。困ったときにはじめて情報を必死で得ようとするのが人間です。そのため、通報者(従業員)が、困ったときに目に入る方法で周知されているのが理想的です。

     この点に鑑みますと、コロナ禍でも定期的な出勤はあるという会社であれば、従業員の目につきやすい場所に内部通報窓口の連絡先を掲示してみたり、仮にメールで流すとしても、最初だけではなく定期的に行ったり、年に一度は研修を行うなどして、継続的に周知徹底する方法が良いのではないかと思います。

     当事務所に社外窓口が設置された場合には、例えば、当事務所所属の弁護士の写真データを提供したり、当事務所がどういった姿勢で社外窓口サービスを提供しているのかといったことを記載したプロフィールデータを提供したりすることが可能です。通報者の安心材料の一つになればと考えている次第です。その他、会社の状況に応じた周知方法についても一緒に検討させていただきますので、ご相談ください。

5. 内部通報制度の正確な理解

  1. 問題点

     内部通報制度を正確に理解している、特にどのような事実を通報してよいのかパッとイメージできる人はほとんどいないのが現実ではないかと思います。

     通常の内部通報の規程には、もちろん、どういった事実、問題を通報してよいのか規定されています。しかし、規程内容はどうしても網羅的なものにならざるを得ないので、必然的に抽象的になります。それでは具体的にどういったことに気づいたら、どういったことで困っていたら通報してよいのかわからない、そもそも、目の前で通報すべき問題が起きているが、通報すべきという発想にならないということになり、結局利用者が増えないということになりがちです。

     例えば「業務において法令違反行為、若しくは社内規程違反行為が生じ、または生じる恐れがあると思料した場合、通報窓口に通報することができる」という趣旨の規程は通常の内部通報規程には入っていると思います。

     セクハラやパワハラを自分が受けているという時に、これが通報の対象に入ることは多くの人が認識しうるところかと思います。しかし、例えば「上司の動きがあやしい」「もしかしたら、取引先との間で何か不正行為が行われているかもしれないが、具体的なことまでわからない」程度の状態ではどうでしょうか。従業員が認識できるのはむしろこの程度の危険性の段階までであり、確証が掴めるまで調査をするようなことは困難です。従業員にしてみると、証拠があるわけでもないし、通報すべき状態ということに思い至らないか、どうしようと思って通報せずに終了となるか、どちらかであることが通常です。

     会社の姿勢として、そこから先の調査をするかどうかは会社で判断するから、このような危険性のある段階で通報してもらいたいという希望があるのであれば、それを具体的に伝えなければ通報はされないと思います。

     結局、通報者である従業員が内部通報制度やその趣旨を正確に理解していなければ、利用者の増加にはつながらないということです。

  2. 対策

     従業員に内部通報制度の理解を深めてもらうためには、内部通報制度の周知や研修において、会社側としてどういったことを通報してほしいと考えているか、なぜそれが必要かを具体的に説明することが重要です。

     会社としては、内部の自浄作用を働かせ、社内で問題を解決し、より良い会社を作りたい、それが結局は従業員のためにもなるという思いがあって内部通報制度を始めているはずです。実際に、相談に来られる担当者の方は、非常に熱心な方が多く、担当になったからには、利用者を増やし、より良い会社作りにつなげたいという思いを持っておられます。

     しかし、それが会社の思いとして従業員にうまく伝わっていないと思われるケースも多いです。

     まずは、会社として、どういう理由から内部通報制度を導入したかという思いや理由を従業員に伝える努力をすることをお勧めします。

     そのうえで、より具体的にこういった場面、タイミングでも通報してほしいという形でわかりやすく、具体的な事例を交えて通報してほしい事実を伝えることで、利用者の増加につながると思います。

     具体的な方法としては社内研修なども考えられます。「社員(通報者)に対する研修・セミナー」もご覧ください。

6. まとめ

 会社内の状況に比して、内部通報制度の利用者が少ない、問題に気付いているのに通報してもらえていないのではないかと感じておられる担当者の方は、まずは上記視点で内部通報制度にかかる対応を見直してみてください。

 上記の通り、当事務所でお力になれることもありますので、導入された内部通報制度を実効性のあるものにしたいというご希望をお持ちの方は一度ご相談ください。